組織のつくり方シリーズ
2026.06.19
「それは私の仕事じゃありません」の壁を壊す。100人の組織に潜む“4,950本のトゲ”を抜き、全員を「全体最適」へ動かす技術

「社長、それは営業が勝手に受けてきた仕事なので、うちの部署では対応しきれません」
「現場が混乱しているのは分かりますが、ルール通りにやっている私たちが責められるのは心外です」
……そんな言葉が耳に入るたび、胃の奥がキリリと痛むことはありませんか?
かつては数人、十数人で、あうんの呼吸で回っていたはずの組織。それが30人、50人と増えるにつれ、いつの間にか部署の間に見えない「万里の長城」が築かれている。
自分の部署の数字さえ良ければいい。他部署の苦労は「あちらさんの都合」で片付ける。
そんな「部分最適」の塊のような空気が社内に蔓延し、経営者であるあなたがどれだけ「全体を見ろ!」「会社のために動け!」と叫んでも、社員の心には響かない。それどころか、「社長は現場の苦労を分かっていない」と、さらに殻に閉じこもってしまう……。
孤独ですよね。誰よりも会社全体の幸せを願っているのはあなたなのに、その真意が伝わらず、まるでバラバラの方向を向いた馬たちを一人で御しているような感覚。
でも、安心してください。それはあなたのリーダーシップが足りないからでも、社員の性格が悪いからでもありません。組織が大きくなる過程で必ずぶつかる「構造上のバグ」にすぎないのです。
このバグをどう取り除き、もう一度全員が「一つのチーム」として機能するようになるのか。そのための具体的な処方箋を、一緒に紐解いていきましょう。私も再勉強中です。一緒に学んでいきましょう。
なぜ、良かれと思ってやったことが「会社を殺す」のか?
組織が成長し、役割分担が明確になることは本来喜ばしいことです。しかし、その「役割」がいつの間にか「縄張り」に変わってしまうところに、セクショナリズムの恐ろしさがあります。
1. 良心から生まれる「致命的な経営損失」
ある企業での、笑えない実話があります。
購買部門の責任者が、自部門の評価(コスト削減)を上げようと、非常に安価な原料を大量に買い付けました。「安く仕入れるのは正義だ」という彼なりの使命感からです。
しかし、その結果どうなったか。
大量の在庫は倉庫を圧迫し、保管コストが跳ね上がりました。さらに、その支払いのために会社のキャッシュフローは悪化し、金利コストまで発生。極めつけは、安かろう悪かろうの原料だったために製造現場で不良品が続出し、顧客からのクレームが殺到したのです。
購買部門は「安く買った」という目標を達成しましたが、会社全体としては巨額の損失を抱え、手元資金が枯渇する寸前まで追い込まれました。「部分最適」が「全体最適」を破壊した典型的な事例です。
2. 成果主義が招く「協力拒否」という病
「頑張った人を正当に評価したい」という経営者の優しさから導入した成果主義が、皮肉にも組織を分断することがあります。
個人の目標達成度だけで評価が決まる仕組みにすると、社員の頭の中には「それは私の目標項目に入っていますか?」というフィルターができあがります。
「他部署のトラブルを手伝っても、自分の評価には1ミリもプラスにならない。それなら自分の仕事に集中したほうが得だ」
そんな計算が働くようになると、組織から「助け合い」という文化が消え、冷徹な「契約関係」だけが残ります。
3. 組織拡大に伴う「4,950本のコミュニケーション・リスク」
実は、組織の壁ができるのは数学的にも証明されています。
10人の組織なら、人と人の関係性(チャネル数)は45本。しかし、これが100人の組織になると、なんと4,950本にまで激増します。
これだけの数の関係性を、個人の努力や「仲の良さ」だけで維持するのは不可能です。意図的に「横の連携」を作る仕組みがなければ、組織は必然的に分断され、情報の抱え込みや自己正当化が始まります。
「不手際で失注した」とは言わず、「顧客の要求が無茶だったから断った」と報告する。そんな、自部署に都合の悪い情報を隠蔽する動きは、この膨大なコミュニケーションの隙間で発生するのです。
現場の「思考の枠」を広げる3つの実践アプローチ
では、どうすれば社員が「自分の部署」という狭い檻から出て、「会社全体」を見渡せるようになるのでしょうか。無理に意識を変えようとするのではなく、「自然と全体を見たくなる仕組み」を提案してみてはいかがでしょうか。
① 「3つのスコア」で視座を引き上げる
個人の目標達成だけを追いかけさせるのではなく、以下の3つの指標をセットで可視化し、評価と連動させる仕組みです。
- 会社の目標スコア(全社利益、顧客満足度など)
- チームの目標スコア(部署間の連携、プロジェクト達成など)
- 個人の目標スコア(個別のKPI)
「自分の仕事が、どうやって会社の利益に繋がっているのか」を数字で実感できるようにします。自分のスコアが良くても、会社のスコアが悪ければ評価が上がりきらない。そんな「一蓮托生」の感覚をシステムとして組み込むのです。
② 評価の単位を「一階層引き上げる」
現在、「課」や「係」といった小さなユニットで業績を管理しているなら、あえてその単位を「部」や「事業部」へと、ワンランク上の大きなユニットに引き上げてみてはいかがでしょうか。
小さなユニット内での最適化行動(自分の課さえ良ければいい)をあえて封じ、より大きな枠組みでの協力を促すのです。これにより、「隣の課を助けることが、結果的に自分の部署の評価に繋がる」という構造が生まれます。
③ 「ランチ多様化プログラム」で物理的に壁を壊す
「仕事の話は会議室で」という固定観念を捨て、あえて「他部署の人とどれだけ交流したか」を公的な評価項目に組み込むアプローチも有効です。
例えば、月に数回、他部署のメンバーとランチや交流を持つことを推奨し、その活動を会社がサポートする。
「部署間の調整不備」こそが、業務遅延や顧客の怒りを招く最大の原因です。ならば、その原因を解決するための「雑談」や「交流」は、立派な業務の一部と言えるはずです。意図的に垣根を越えさせる仕掛けを作ってみる価値は十分にあります。
現場の心を動かす「NG/OK」の境界線
経営者としての言葉が、時に現場を萎縮させたり、逆に反発を招いたりすることがあります。ほんの少しの言い換えで、現場のエネルギーを「自己防衛」から「全体貢献」へと転換できるかもしれません。
【NG】特定の部門に責任を押し付ける
「営業が無理な納期で受けてくるから製造が困るんだ。営業はもっと現場を見ろ!」
➔ これでは部門間の犯人探しが加速し、互いに「自分たちが正しい」と主張する防衛戦が始まってしまいます。【OK】対立を「建設的なエネルギー」に転換する
「営業の『売りたい』と製造の『守りたい』がぶつかるのは、どちらも会社を思ってのこと。この対立の中に、会社が次に進化するためのヒントがあるはずだ。一緒に解決策を探そう」
➔ 部門間の衝突は、組織の課題が可視化された瞬間です。両者を巻き込み、会社全体のビジョンに照らし合わせて議論させる場を設けてみてください。【NG】詳細すぎるルールで縛る
「不公平がないように、全てのケースを想定したマニュアルを作れ!」
➔ ルールを細かくすればするほど、社員はその「ルールの隙間」を突くようになります。運用コストが増大し、結果的に思考停止を招きます。【OK】柔軟性を残し、信頼関係というインフラを整える
「基本のルールはこれだけ。あとは相手の立場に立って、会社にとって最善の判断をしてほしい。困ったら私が責任を持つ」
➔ 現場に近い支店や部署に意思決定権を移譲することで、本社への確認作業がなくなり、結果的に部門間のいさかいは減少します。
AIを「組織の通訳」として使い倒す、次世代の経営戦略
これからの時代、セクショナリズムの解消に「AI」を活用しない手はありません。
「AIに組織の壁が壊せるのか?」と思われるかもしれませんが、AIは「感情に左右されない客観的なデータ」を提示することで、人間同士の感情的なもつれを解きほぐす最高のツールになります。
- 「声なき本音」の可視化
部署内会議や1on1の音声をAIで文字起こしし、分析します。すると、「どの部署が、どの部署に対して、どのような不満を持っているか」という傾向がデータとして浮き彫りになります。経営者は、現場の「生の声」を事実として把握できるようになります。 - ボトルネックの構造化
膨大なデータから、AIに「部門間が協力しない真の要因」を抽出させ、マンダラチャートなどで構造化します。「単なる仲の悪さ」だと思っていたことが、実は「評価制度の矛盾」や「情報共有ツールの不備」だった、という真因が見えてきます。 - 社内AIによる「全体像」の共有
自社の業務マニュアルや各部署の動きを学習させた「社内専用AI」を導入します。社員が「この仕事、他部署にどう影響する?」とAIに聞けば、AIが客観的な回答を提示してくれます。他部署の苦労を想像する「補助輪」としてAIを使うのです。
ここからが、経営者であるあなたの出番です。
AIは情報を整理し、たたき台を作ることはできますが、「自部署の利益に固執する社員の意識を変える」ことや「組織の壁を物理的に壊す決断」はできません。
AIが示したデータをもとに、「よし、評価制度をこう変えよう」「来月、全社でこういうビジョンを語る場を作ろう」と決断を下し、社員の感情をケアしながら導く。この「9〜10割目」の最も付加価値の高い仕事に、あなたの貴重なエネルギーを集中させてください。
まとめ:組織の壁は、新しい成長への「産みの苦しみ」

部署間の対立が起きているということは、それだけ各部署が自分の役割に責任を持とうとしている証拠でもあります。それは決して悪いことではありません。
大切なのは、そのエネルギーを「相手を攻撃するため」ではなく、「会社全体を良くするため」にどう転換するか。
- 評価の視座を上げること。
- 物理的に交流の場を作ること。
- そして、AIなどの最新ツールを使い、客観的な事実に基づいて対話すること。
これらを一つずつ積み重ねていくことで、あんなに頑丈だった「部署の壁」は、いつの間にか「頼もしい連携の架け橋」へと変わっていくはずです。
「うちの会社、最近なんだか雰囲気が変わったな」
「他部署のやつらが、あんなに協力してくれるなんて」
そんな社員たちの驚きと笑顔が見られる日は、そう遠くありません。
あなたのその熱い想いは、必ず現場に届きます。まずは明日、隣の部署の責任者に「最近、困っていることはないか?」と、コーヒーを差し出すことから始めてみてはいかがでしょうか。
私も、経営の奥深さを日々痛感しながら、皆さんと共に歩んでいきたいと思っています。
一緒に、最高のチームを作っていきましょう。
この記事は、過去40年間に6,000名を超える経営者の方々から教えていただいたことです。この教えのおかげで、弊社は今も継続できております。感謝の気持ちを込めて、恩贈りさせていただきます。

