営業支援シリーズ
2026.05.26
「95%の無駄」を宝の山に変える。根性論を卒業し、”今、欲しい”顧客だけを射抜く「インテント・セールス」の極意

「今日も、断られ続けて終わったな……」
夕暮れ時、重いカバンを肩に食い込ませながら駅に向かう。手元のリストには、今日電話をかけた、あるいは訪問した企業の名前がズラリと並び、そのほとんどに「不在」「興味なし」「門前払い」のチェックがついている。
「とにかく数を打て」「動かなければ始まらない」
そんな上司の言葉を信じて、1件でも多く、1分でも長くアプローチを続けてきた。でも、心の中では薄々気づいているはずです。「このやり方、本当に効率的なんだろうか?」と。
断られるたびに削られるモチベーション、一向に上がらない成約率、そして「自分は一体何のために働いているんだろう」という虚無感。これは、あなたの努力が足りないからではありません。ましてや、あなたの営業スキルが低いからでもありません。ただ、「誰に、いつ、声をかけるか」という選定の基準が、少しだけ曖昧なだけなのです。
経営者である私も、かつては「動けばなんとかなる」と自分に言い聞かせていた時期がありました。しかし、現場の皆さんが疲弊していく姿を見るのは、経営者として最も心苦しいことです。だからこそ、今、私たちは「根性」ではなく「仕組み」で勝つ方法を学ぶ必要があります。
私も再勉強中です。一緒に学んでいきましょう。
1. 「頑張れば報われる」の罠。営業活動の95%はサンクコスト(埋没費用)かもしれない
営業の世界には、避けては通れない「残酷な数字」が存在します。
一般的な見込み客の中で、自社の商品に強い関心を示してくれるのは全体の約25%。さらに、そこから実際に契約に至るのはその中の25%程度と言われています。つまり、最終的に受注をいただけるのは、アプローチした企業のわずか5%(20社に1社)に過ぎません。
残りの95%への働きかけは、厳しい言い方をすれば「サンクコスト(回収できない費用)」になってしまっているのが現実です。
もちろん、その95%の中には「将来の顧客」が含まれているかもしれません。しかし、今すぐニーズがない相手に、貴重な時間とエネルギーを注ぎ続けるのは、砂漠に水を撒くようなものです。
「ABM」の限界と、新たな光「インテント・セールス」
これまで多くの企業が、ターゲット企業をあらかじめ決めて戦略的に動く「ABM(アカウントベースドマーケティング)」を取り入れてきました。しかし、ABMには一つの弱点があります。それは、「自社が売りたい相手」を選んでいるだけで、「相手が今、困っているか」までは分からないという点です。
そこで今、注目されているのが「インテント・セールス」という考え方です。
これは、顧客のWeb上の行動履歴(インテントデータ)を活用し、「今まさに自社に関連する課題を検索している企業」を特定する手法です。
- 従来の営業: 「この業界なら買ってくれるはずだ」と予測して電話する(自社起点)
- インテント・セールス: 「今、この問題を解決したくて調べている」企業を見つけて声をかける(顧客起点)
この視点を取り入れるだけで、アプローチできる有益な潜在顧客数は、従来のリードベースに比べて10倍から100倍という規模で増加します。闇雲に突撃するのではなく、「喉が渇いている人」を見つけてから「水」を差し出す。この順番を変えるだけで、あなたの努力は一気に報われやすくなるのです。
2. 明日から使える「狙い打ち」のステップ:FABフレームワークと優先順位の付け方
では、具体的にどうやって「喉が渇いている人」を見極めればいいのでしょうか。まずは、自分たちが持っている武器(商品・サービス)を再定義することから始めましょう。
自力ターゲティングを支える「FABフレームワーク」
ターゲットを絞る際、まずは以下の3つの視点で自社を分析してみてください。
- Feature(特徴): その商品にはどんな機能があるか?
- Advantage(優位性): 他社と比べて何が優れているか?
- Benefit(便益): 顧客のどんな悩みが解決され、どんな良い未来が待っているか?
例えば、ある町工場が「超精密な金属加工」を売りにしているなら、Benefitは「製品の故障率が下がり、クレーム対応コストが激減する」ことかもしれません。そうであれば、狙うべきは「製品の品質向上に悩んでいるメーカー」であり、決して「安さだけを求める企業」ではないはずです。
リードを「属性」と「行動」の2軸で評価する
リストの上から順番に電話をかけるのは今日で終わりにしましょう。
以下の2つの軸で、アプローチの優先順位を決めるルールを作ってみてはいかがでしょうか。
- 属性軸: 企業規模、業種、役職など(自社が助けられる相手か?)
- 行動軸: 資料ダウンロード、セミナー参加、Web検索履歴(今、検討しているか?)
この2つのスコアが高い企業から優先的にアプローチする。これだけで、商談化率は劇的に向上します。実際に、既存顧客のデータから受注企業の共通点を洗い出し、ターゲットを絞り込んだことで、利益を上げながら事業を拡大できた事例は枚挙にいとまがありません。
3. 現場で陥りがちな「目に見えない罠」:すべての客を説得しようとしていませんか?
営業現場で最も精神を削削られるのは、「絶対に買わない理由を探している人」を説得しようとする時間です。
「ディスクオリファイ(早期除外)」の勇気を持つ
「せっかくのアポだから」「リストを無駄にしたくないから」と、脈のない商談を長引かせてしまうことはありませんか? 実は、営業成功率を下げる最大の要因はここにあります。
強制的に取られたアポイントメントや、相手のニーズを無視した強引なコミュニケーションによる最終的な営業成功率は、14%以下に終わるというデータがあります。
ここで提案したいのが、商談の初期段階で「お断り」の姿勢をあえて見せることです。
「もしかしたら、弊社のサービスよりも他社様のほうが合っているかもしれません」「無理に導入していただく必要はありません」と中立的に伝えてみてください。
これにより、真のニーズを持つ顧客だけが残り、見込みのない客を早期に「除外(ディスクオリファイ)」できます。冷たく聞こえるかもしれませんが、これは「お互いの貴重な時間を尊重する」ためのプロの作法です。低確率な客に執着せず、高確率な客に100%の力を注ぐ。この切り替えが、あなたの成約率を劇的に変えます。
役員クラスへの接続率はわずか8.1%
また、大企業の役員などキーマンへの接続率は、どんなに工夫しても8.1%程度と極めて低いのが現実です。だからこそ、事前準備のない「数打ちゃ当たる」アプローチは、相手にとってもあなたにとっても損失でしかありません。数字の裏にある「顧客の置かれた状況や感情」を読み解く、人間らしい想像力こそが、最後に扉を開く鍵となります。
4. 属人性を脱し、「AI」を相棒にして組織で勝つ戦略
これまでお話ししたことは、個人のスキルとして身につけるのは非常に大変です。そこで、私たちマックスストーンでも実際に導入・実践している「AI活用プロセス」を共有します。これは、営業の泥臭い部分をテクノロジーに任せ、人間が人間にしかできない仕事に集中するための仕組みです。
マックスストーン流:AIと歩む次世代セールス
私たちは、以下のステップで営業の精度を高めています。
- 顧客の声を資産化する: 過去の商談やヒアリング音声をAIで文字起こしし、「なぜ自社を選んだのか」という真実を抽出します。
- マンダラチャートで可視化: AIに「誰が(Who)」「どんな課題で(Needs)」「自社のどこを評価したか(Strengths)」を分析させ、3×3のチャートに構造化します。これにより、狙うべきターゲット像が一瞬で明確になります。
- 自社専用AIの構築: 外部に漏れないセキュアな環境で、自社の成功事例や強みをAIに学習させます。
- 現場からのプロンプト指示: 営業マンがAIに対し、「この業界の役員向けに、課題解決をフックにした手紙の文面を作って」と指示します。AIは数秒で、高度にパーソナライズされた「たたき台」を生成します。
この仕組みを導入した結果、マックスストーンではリスト作成や文面作成にかかる時間を大幅に削減し、その分、顧客との深い対話に時間を割けるようになりました。
AIが生成した「たたき台」に、あなたの経験と、相手を思いやる「感情」を吹き込む。
これこそが、これからの時代に求められる営業の姿ではないでしょうか。
あなたの「熱意」を、正しい場所へ届けるために

営業は、単にモノを売る仕事ではありません。顧客の抱える課題を解決し、より良い未来を共に創る、誇り高い仕事です。
だからこそ、その大切な熱意を、ニーズのない相手への「お願い営業」で浪費してほしくないのです。
ターゲットを絞り、タイミングを見極め、時には勇気を持って「お断り」する。そして、AIなどの新しい武器を使いこなし、組織として賢く戦う。
その先にあるのは、「あなたに来てもらえて良かった」と顧客から感謝され、高い成約率と充実感に満ちた、新しい営業の日常です。
まずは今日、手元のリストを眺めてみてください。
その中で、本当に「あなたの助けを待っている人」は誰でしょうか?
そこから、新しい一歩を始めていきましょう。

