採用支援シリーズ

2026.05.27

「人口270人の村でも採用できる」は本当か?——地方中小企業が“数の呪縛”を解き、理想の人材を惹きつける「逆転の採用戦略」

「……また、応募ゼロか」

朝一番、パソコンで採用管理画面を開き、更新ボタンを押す。画面に映るのは昨日と変わらない「応募者数:0」の数字。溜息をつきながら窓の外を眺めると、見慣れた地元の風景が広がっています。

「結局、うちみたいな地方の会社には、誰も来ないんだろうな。給料だって都会の大手には勝てないし、そもそも若者がいないんだから……」

そんな風に、胃の痛む思いで求人票を見つめてはいませんか?
ハローワークに条件を出し、求人サイトに高い広告費を払っても、なしのつぶて。ようやく来たと思えば、こちらの要望とは程遠い。あるいは、工業高校の求人倍率が「27.2倍」という驚愕の数字(1人の生徒を30社で奪い合っている状態です)を聞いて、絶望に近い感情を抱いているかもしれません。

でも、少しだけ立ち止まって考えてみてほしいのです。本当に、人が来ないのは「場所」のせいだけなのでしょうか?

実は今、全国の至る所で、どれほど辺境の地であっても、どれほど小さな会社であっても、「あなたと一緒に働きたい」と願うファンを確実に作り、採用を成功させている経営者たちがいます。彼らは「数の勝負」を捨て、「共感の勝負」に舵を切りました。

今回は、地方というハンデを「最強の武器」に変えるための視点と、明日から現場で実践できる具体的な知恵を整理しました。私も日々、中小企業の採用の在り方について再勉強中です。一緒に学んでいきましょう。


1. 「条件の比較」という土俵から、今すぐ降りる勇気を持つ

地方の中小企業が最も陥りやすい罠は、リクルートサイトやハローワークで「給与」「休日数」「福利厚生」といったスペックだけで勝負しようとすることです。

「スペック競争」は、資本力のある強者のゲーム

正直に申し上げましょう。数字の比較だけで選ばれるなら、求職者は1円でも高く、1日でも休みが多い都会の大企業を選びます。地方の、しかも限られた労働人口の中でこの戦いを挑むのは、装備なしで戦場に飛び込むようなものです。

ある水道設備会社の事例をご紹介します。そこは若者の都会流出が激しい地域にあり、1年間応募がゼロでした。しかし、彼らは「条件」で戦うのをやめ、「地元志向の若者」にターゲットを絞り切りました。
「都会で消耗するより、慣れ親しんだ地元で、家族を大切にしながら働こう」
このメッセージを、社員のリアルな声や、親御さんが安心できるような温かいパンフレットに込めて伝えた結果、月数万円の広告費で年間5名の採用に成功したのです。

「ない」ことを卑下せず、価値に変換する

「うちは古いし、何もない」と自嘲気味に話す経営者の方もいらっしゃいます。しかし、見方を変えれば、その「古さ」は「地域に根ざした信頼の証」であり、「何もない」は「自分たちで創り上げる余白」になります。
営利活動を続け、地域で雇用を守っていること自体が、社会に対する巨大な貢献です。その誇りを胸に、「うちだからこそ提供できる価値」を再定義することからすべては始まります。


2. ターゲットの「生活イメージ」を徹底的に具体化する

地方採用で勝つためのキーワードは、仕事内容そのものよりも「その場所で、どんな人生を送れるか」という生活の解像度を高めることにあります。

Uターン・Iターン層が抱える「転職ブロック」を先回りして解かす

都心から地方への移住を伴う採用の場合、最大の敵は「候補者の家族」です。いわゆる「嫁ブロック」「親ブロック」ですね。
候補者本人が「行きたい!」と思っても、家族は「生活はどうなるの?」「教育環境は?」「その会社、潰れない?」と不安に駆られます。

ここで有効なのが、「エリアの魅力」を求人情報とセットで語るアプローチです。

  • 近隣の美味しいスーパーや、子育て支援制度の情報
  • 会社が用意できる引越し手当や、自治体の補助金情報の提示
  • 「会社が今後どうなっていくのか」という創業の歴史と未来のビジョン

これらを丁寧に発信することで、家族の不安を安心へと変えていくことができます。

アナログな「ポスティング」がWebを凌駕する瞬間

「求職者の8割はスマホで探している」というデータは事実ですが、地方においては「自宅から近い」「通勤が楽」という動機は、どんな福利厚生よりも強力な志望理由になります。

Web検索では出会えない地元の潜在層にリーチするには、あえてアナログな手法を組み合わせるのが賢明です。

  • 「ご近所で仕事を探していませんか?」
  • 「出勤は保育園の送迎後でOKです」
  • 「お子さんの地元就職を応援します!」

こうした、ターゲットの日常に寄り添ったキャッチコピーを添えたチラシを、会社周辺にポスティングしたり、地域情報誌に掲載したりする。この「半径数キロメートルへの深掘り」が、意外なほどマッチングを生みます。


3. 「人間味」という最強のコンテンツで、心理的距離をゼロにする

求職者が一番知りたいこと。それは「どんな人が、どんな想いで働いているか」という、空気感です。

社長自らが「広告塔」になり、弱さもさらけ出す

地方の中小企業において、社長は最大のブランドです。
福岡県飯塚市の建設会社「前田組」さんの事例は非常に示唆に富んでいます。彼らは建設業でありながら、銭湯やサウナの運営、社内菜園の野菜を使った「きょうのまかない」の様子をビジネスSNSで発信しています。
一見、仕事とは関係ないように思える「人間味のある風景」こそが、潜在層の共感を生み、「この人たちと一緒にいたい」という強い動機を形成するのです。

また、あえてネガティブな情報を公開する誠実さも武器になります。

「正直、今はまだ残業が多いです。でも、あなたが入社してくれることで、みんなが定時で帰れる組織にしたいんです」

このように課題を包み隠さず伝えることで、地方企業に対する「ブラックなのでは?」という不信感を払拭し、逆に「力になりたい」という熱意ある人材を惹きつけることができます。

「直接口説く」という、泥臭い情熱の力

愛媛県の人口270人の限界集落でホテルを運営する企業は、経営者や現場スタッフが候補者を直接口説きに行く姿勢を徹底しています。
「1名の採用に50〜150名の応募が必要」というWebの一般論に振り回される必要はありません。たった一人、目の前の熱意ある若者に「君の力が必要なんだ」と本気で伝える。地方だからこそ、その「濃いコミュニケーション」が決定打になります。


4. テクノロジーを「現場の武器」として使い倒す

「地方だから」「アナログだから」と最新技術を敬遠するのはもったいないことです。むしろ、リソースの限られた地方企業こそ、AIを活用して「採用の自動化・高度化」を進めるべきです。

AIで「伝えきれない想い」を可視化する

例えば、以下のようなステップで、あなたの頭の中にあるビジョンを言語化してみてはいかがでしょうか。

  1. 社内の声を文字起こしする: 社員との雑談や、あなたの創業への想いをスマホで録音し、AIでテキスト化します。そこから「なぜこの地域で働いているのか」というリアルなキーワードを抽出します。
  2. ターゲットに刺さる募集文を作る: AIに対し、「都心から地方への移住を考えている30代向けに、当社の業務内容と自然豊かな暮らしの魅力をセットにした求人票を作って」と指示を出します。
  3. 動画で「空気感」を伝える: 動画生成AIを使えば、撮影の手間を最小限に抑えつつ、職場の雰囲気や地域の魅力を伝える高品質な動画を作成できます。

さらに、どうしても地元で人材が確保できない職種(マーケティングやデザインなど)については、業務を切り分けて「全国フルリモート採用」に切り替えるのも一つの戦略です。島根県の看板会社は、この戦略で地域に縛られず理想の人材を確保することに成功しています。


5. 【重要】「採用して終わり」にしない、定着のための仕組みづくり

せっかく苦労して採用した人材も、すぐに辞めてしまっては意味がありません。データによると、従業員5人未満の事業所では、大卒者の3年以内離職率が約6割に達するという厳しい現実があります。

地域のコミュニティと「地縁」を結ぶ

長野県の老舗鞄メーカーは、地元の学校や鞄教室と連携し、地域に根ざした活動を通じて採用パイプを構築しています。
新しく入った社員が、会社の中だけでなく、地域社会にも居場所を見つけられるようサポートすること。これが、地方における最高の「離職防止策」になります。

現場責任者へ:採用は「全員参加のプロジェクト」です

経営者がどれだけビジョンを語っても、現場の責任者が「忙しいのに、新人の教育なんてやってられない」という空気を出していれば、新人はすぐに去っていきます。
採用は人事や社長の仕事ではなく、「自分たちの未来の仲間を探し、育てる」ための全員参加のプロジェクトであることを、組織の共通言語にしていきましょう。


地方というキャンバスに、どんな物語を描くか

「地方だから人が来ない」というのは、ある意味では真実かもしれません。しかし、それは「これまでのやり方では」という条件付きです。

  • 「条件」ではなく「共感」で選ばれること
  • 「仕事」だけでなく「暮らし」を提案すること
  • 「社長の顔」が見える、人間味のある発信をすること
  • AIなどの武器を使い、伝え方の精度を上げること

これらの視点を持つだけで、あなたの会社は「その他大勢の求人」から脱却し、誰かにとっての「唯一無二の居場所」へと変わります。

1名の採用に対して250クリックが必要だ、150名の応募が必要だ……そんな冷たい数字に振り回されるのはもう終わりにしましょう。
大切なのは、あなたの会社の扉を叩いてくれた一人ひとりと、どれだけ誠実に向き合えるか。そして、その準備ができていることを、いかに魅力的に世界へ発信できるかです。

「うちの会社、実は結構いいところあるんだよな」
そう思えたなら、もう準備は万端です。その想いを、言葉に、形にしていきましょう。

地方の小さな会社が、日本を面白くする。
私は、そんな未来を本気で信じています。