組織のつくり方シリーズ
2026.06.19
「もう、あの部署とはやりたくない」を組織の力に変える――30%の人件費ロスを解消し、現場の“情報の壁”を壊す「透明化」の技術

「社長、開発部が勝手に決めた仕様じゃ、現場では売れませんよ!」
「営業こそ、お客様の本当のニーズを汲み取っていないんじゃないか?」
新製品のプロジェクトが佳境に入った頃、会議室に飛び交うのは建設的な議論ではなく、お互いへの不信感と責任のなすりつけ合い……。経営者として、これほど胃が痛くなる光景はありませんよね。
「うちは人数も増えてきたし、そろそろ組織らしくなるかと思ったら、逆にバラバラになっていく」。そんな溜息をつきたくなる夜もあるかもしれません。部署が増え、拠点が増えるごとに、なぜか「隣の部署が何をしているか分からない」「必要な情報が降りてこない」という声が大きくなる。そして、良かれと思って始めた業務の細分化が、いつの間にか「それは私の仕事じゃない」という高い壁(セクショナリズム)を作ってしまう。
実は、この「部署間の衝突」は、社員一人ひとりの性格の問題ではありません。組織が成長する過程で必ず直面する、ある種の「構造的なバグ」なのです。私自身も、日々この課題と向き合い、どうすれば現場が同じ方向を向けるのか、試行錯誤を繰り返しながら再勉強中です。一緒に学んでいきましょう。
1. なぜ組織が大きくなると「情報の壁」は必然的に現れるのか?
経営者がまず知っておくべきは、「放っておくと、組織のコミュニケーションは幾何級数的に難しくなる」という冷徹な事実です。
「数の呪縛」が引き起こす機能不全
組織内のコミュニケーションのルート(チャネル数)は、「人数 ×(人数−1)÷ 2」という計算式で表されます。
例えば、10人の組織なら45本ですが、これが100人になると4,950本にまで膨れ上がります。10倍の人数になったとき、コミュニケーションの複雑さは100倍以上になるのです。
この「数の呪縛」を放置すると、現場では以下のような現象が起こり始めます。
- 情報の抱え込みと権力化: 「情報を知っていること」が優位性になり、自分のミスを隠したり、他部署より有利に立つためにあえて情報を小出しにする。
- 縄張り意識の構築: 「ここから先は私の聖域。口出ししないでくれ」という過剰な防衛本能が働き、全体最適よりも自部署の利益が優先される。
- 致命的な遅延: 12人以上の組織において、仕事が滞る最大の原因は「調整不備」です。
利益の3割をドブに捨てている!?
ある調査(ワーク・イメージング)によると、企業における全人件費の30%〜40%が、実は「無駄な衝突の解決」や「役割の混乱への対応」に費やされているといいます。
部署間の軋轢で仕事が止まっている時間は、経営的に見れば、給料の3割を捨てているのと同じこと。これは単なる感情の問題ではなく、極めて深刻な経営損失なのです。
2. 現場の「心理的境界線」を溶かす、明日からの具体的な処方箋
では、この高い壁をどう壊せばいいのでしょうか。精神論ではなく、仕組みとして「協力せざるを得ない環境」を作ることが近道です。
① 「他部署=外部のVVIP顧客」という絶対ルールの徹底
社内の他部署から情報提供や助けを求められたとき、「今は忙しいから後で」と後回しにしていませんか?
ここで提案したいのが、「他部署からの依頼は、外部の重要顧客と同じスピード感で対応する」という組織ルールの導入です。
【OKな姿勢】
「人事部からの資料提出依頼だね。彼らが円滑に動けることが、結果として全社の採用力に繋がる。最優先で対応しよう」
【NGな姿勢】
「また人事部か。現場の忙しさも知らないで、面倒なことばかり言ってくるな」
このように、他部署の悪口を言うことを禁じ、互いを「社内顧客」として尊重する文化をトップが繰り返し発信することが不可欠です。
② 「部門横断チーム(CFT)」を小さく、素早く作る
部署間の調整が難航する大きなプロジェクトこそ、最初から「営業だけ」「開発だけ」で進めないことです。
問題が起きた瞬間に、各部署から1名ずつエース級ではなくても「実務に詳しい若手」を集めた小さな部門横断チーム(クロスファンクショナル・チーム)を組成してみてください。
情報の分断は「相手の顔が見えない」ことから始まります。小さなチームで情報と責任を共有させることで、「あいつら」が「仲間」に変わる瞬間が必ず訪れます。
③ 「非同期コミュニケーション」で透明性を確保する
「会議をしないと情報が伝わらない」という状態は、今の時代、リスクでしかありません。
グループウェア等のITツールを活用し、誰がどの業務に取り組み、どんな顧客ニーズを抱えているのかを、「誰でも・いつでも・どこからでも」見られるプラットフォームを構築しましょう。
「わざわざ聞かなくても、そこを見れば分かる」という状態を作ることが、現場のストレスを劇的に軽減します。
3. 「犯人探し」を止め、「仕組みの欠陥」を修正する
情報共有の漏れで大きなミスが起きたとき、私たちはつい「誰が言わなかったんだ?」「なぜ確認しなかったんだ?」と、個人や特定の部署を責めたくなります。しかし、これはセクショナリズムを加速させる一番の悪手です。
攻撃の矛先を「人」から「システム」へ
ミスが起きた際、経営者が取るべきスタンスはこうです。
「今回のミスは、個人が悪いのではなく、情報が流れる仕組みに欠陥があったということだ。将来二度と起こらないように、どう連携ルートを書き換えようか?」
このように、「過去の責任追及」ではなく「未来の解決策」にフォーカスすることで、現場は情報を隠蔽する動機を失います。
外部からの視点を意識する
BtoBビジネスにおいて、商談後に担当者の87.5%が企業のホームページを確認し、その「信頼性」を裏取りするというデータがあります。
社内の情報共有不足による対応の遅れや、部署ごとに言うことが違うといった不備は、私たちが思う以上に透けて見えており、顧客の信頼を奪っています。
「社内の壁」は、そのまま「顧客との壁」になっている。この危機感を全社で共有してみてはいかがでしょうか。
4. AIを活用し、経営者が「人間にしかできない仕事」に集中する戦略
これからの時代、部署間の情報分断を解決する強力な武器が「AI」です。
実は弊社(マックスストーン)でも、このAIを活用した情報共有プロセスを実際に導入・実践しており、部署間の「言った・言わない」や「情報のブラックボックス化」を解消する大きな成果を上げています。
私たちが実践している、AIによる組織変革のステップをご紹介します。
- 生の音声をデータ化する: 会議や商談の音声をAIで文字起こしし、「現場で何が起きているか」を可視化します。
- ボトルネックの構造化: 膨大なデータから、AIに「どの部署間で情報が滞っているか」を抽出させ、マンダラチャートのように構造化します。
- 社内専用AIの構築: 過去の経緯や顧客ニーズを学習させた自社専用AIを作ります。社員は他部署に聞きづらいことも、まずはAIに質問して背景を把握できます。
- 経営判断への活用: AIに蓄積された「現場の質問ログ」を経営陣が分析します。そこには「現場が何に困っているか」という声なき本音が詰まっています。
このプロセスの要諦は、「情報の整理やたたき台作り」という泥臭い作業はAIに任せ、経営者は「感情のケア」や「理念の浸透」といった、人間にしかできない高度な意思決定(9〜10の部分)に集中することにあります。
AIが提供する客観的な事実データに基づき、トップが「よし、このプロジェクトは部門横断でやろう」と決断を下す。この「データと情熱の融合」こそが、これからの組織運営のスタンダードになるはずです。
まとめ:組織の壁を壊すのは、経営者の「決意」と「仕組み」

部署間のセクショナリズムは、放っておけば自然に解決することはありません。むしろ、組織が成長すればするほど、その壁は厚く、高くなっていきます。
しかし、視点を変えれば、その壁を壊した先には「全社員の知恵が結集する」という、中小企業にとって最強の武器が待っています。
- 他部署を顧客として扱うルールを作る
- 「人」を責めず「仕組み」を直す文化を育てる
- AIなどのテクノロジーを使い、情報の透明性を強制的に高める
これらのアプローチを、まずは一つからでも試してみてください。
現場の「無駄な衝突」が「建設的な協力」に変わったとき、あなたの会社は、人件費の30%という埋蔵金を掘り起こし、競合他社が到底追いつけないスピードで進化し始めるはずです。
組織の一体化への道は、一歩一歩の積み重ねです。私もその道の途中にいます。共に、最高のチームを作っていきましょう。
この記事は、過去40年間に6,000名を超える経営者の方々から教えていただいたことです。この教えのおかげで、弊社は今も継続できております。感謝の気持ちを込めて、恩贈りさせていただきます。
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